飲食店開業前に必ず読む「店舗契約の落とし穴」後悔しないためのチェックポイント
こんにちは!佐久市中込の不動産仲介会社「にじや不動産」です。
にじや不動産では、物件紹介だけでなく、
・飲食業マネジメント経験10年
・Web業界(マーケティング・制作)15年
の経験をもつファイナンシャルプランナーが、店舗経営相談も行っています。
佐久市や長野県への移住を機に、カフェや飲食店を開きたいと考えている方が増えています。
ただ、住居用の賃貸アパートを借りたことはあっても、店舗用物件をかりたことがある人は多くはないでしょう。
つまり、知識のない状態で契約すると、不利な条件をそのまま飲まされてしまうことになります。
この記事では、飲食店を開業する方に向けて、契約前に必ず確認すべき法律知識とチェックポイントを、具体的なトラブル事例とともに解説します。
基礎知識|住居用賃貸と店舗賃貸、何が違うのか?
借地借家法の「適用範囲」を理解する
日本の不動産賃貸は、借地借家法によって借主(テナント)の権利が一定程度守られています。しかし、住居用と事業用(店舗)では、その保護の「厚み」が大きく異なります。
| 項目 | 住居用賃貸 | 店舗(事業用)賃貸 |
|---|---|---|
| 消費者契約法の適用 | あり(個人の場合) | 原則なし |
| 更新拒絶の要件 | 厳しい(正当事由が必要) | 定期借家では更新なし |
| 敷金・原状回復のガイドライン | 国交省ガイドラインが適用される | 当事者間の合意が優先 |
| 内装工事の自由度 | 比較的制限あり | 契約次第で広い自由あり |
店舗賃貸では、
契約書に書かれていることが「すべて」
です。
「常識的にこうでしょう」という判断は通りにくく、サインした以上は内容に縛られます。
だからこそ、署名前の確認が極めて重要です!
大事なことなので、もう一度お伝えしますね。
契約書に書かれていることが「すべて」です。
どんな記述も何もかもが通るというわけではないですが、逆を言えば「書いていないことは通りにくい」とも言えます。
では、まず最初に知っておくべき「契約の種類」についてお伝えします。
普通借家契約と定期借家契約の違い
飲食店の店舗賃貸では、近年「定期借家契約(定期建物賃貸借契約)」が主流になっています。両者の違いを正確に理解しておきましょう。
普通借家契約
- 契約期間が終了しても、正当事由がなければオーナーは更新を拒絶できない
- 借主側は比較的「居続けやすい」
- ただし、条件交渉力が弱い場合、更新時に賃料を上げられることがある
定期借家契約
- 契約期間が満了すると自動的に終了する(更新なし)
- オーナーが再契約を申し出ない限り、退去しなければならない
- 借主は期間内の安定した利用は保障されるが、期間終了後の保障はない
これを聞くと、「普通借家契約のほうがいい」と思うかもしれません。
ですが、どちらの契約で提示するかは物件オーナーが決めます。
「普通借家契約にしてください」と言って断られた場合、「じゃあ他の人に貸します」となる可能性が高いです。
納得できないことかもしれませんが、物件の所有者が決めることなので致し方ない部分ではあります。
もし、どうしても普通借家契約で借りたいのであれば、
- 事業計画を提出する
- 家賃をしっかり払っていけることを証明する
- コミュニケーションをしっかりとり、信頼できる事業者であることを示す
などの対応をすることで、交渉できるかもしれません。
では、次は具体的に「飲食店用テナントを借りるとき、どんな点に気をつければいいか?」をみていきましょう。
チェックポイント1|飲食店特有のインフラ確認と法的責任の所在
見落としがちな「排水・下水」の問題
飲食店を開業するにあたって、最初に確認すべきインフラが下水道への接続状況です。
古い物件では、排水がU字溝や浄化槽に流れているケースがあります。
飲食店から出るグリス(油脂)を含む排水を適切に処理するには、グリストラップ(油水分離装置)の設置と、それに対応した排水設備が必要です。
もし下水道未接続の物件であった場合、以下の問題が生じます。
- 保健所の「飲食店営業許可」が下りない可能性がある
- 下水道への接続工事が必要になり、数十万〜数百万円の費用が発生する
- 工事の許可・費用負担をめぐってオーナーとトラブルになる
民法第606条は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定めています。
つまり、建物の基本的なインフラ不備はオーナーが修繕すべきというのが原則です。
ただし、これには「飲食店として使用できる状態」の基準をどう定めるかという問題があります。
「事務所として貸した物件を飲食店に使うなら、それに必要な工事は借主負担」とする契約内容になっているケースもあり、契約書の「使用目的」の記載が重要です。

契約書の「使用目的」欄に「飲食店(厨房設備の設置を含む)」と明記されているかを確認しましょう。
使用目的が曖昧なまま入居し、後から「厨房の排水工事はテナント負担」と言われるトラブルを防止できます。
電気容量の確認:飲食店は「特殊な業種」
一般的な事務所や小売店と比べ、飲食店は電気使用量が極めて多い業種です。
業務用冷蔵庫、オーブン、フライヤー、換気扇……これらを同時に稼働させるには、単相3線式200V・50A以上の電気容量が必要になるケースがほとんどです。
古い物件では単相2線式の100Vしか引き込まれていないことがあり、電力会社への「引込線変更工事」と「電気設備増設工事」が必要になります。
この費用は数十万円になることも珍しくありません。
確認すべき3点
- 現在の電気引込み方式(単相2線式か単相3線式か)
- 電気容量(アンペア数)
- 増設工事をした場合、費用負担はオーナーか借主か

”賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う”と定めていますが、必ず大家さん負担というわけではありません。
交渉のすえ「そんなに費用がかかるなら貸したくない」と言われることもあります。
こういった場合は、借主が負担する。という場合もあります
換気・ダクト工事の難しさ
飲食店経営で見落とされがちなのが、排気ダクトの設置です。
もし、調理の煙や臭いを外部に排出するダクトの工事が必要な場合、建物の外壁に穴を開けて取り付けるため、建物本体への工事になります。
法的には、建物の構造に影響を与える工事(外壁への開口、屋根への貫通)は、原則としてオーナーの承諾が必要です(民法第616条、借地借家法の趣旨)。
トラブルになりやすいのは、「工事してもいいよ」という口頭の許可だけで進め、退去時に「穴を塞いで元通りにしろ」と言われるケースです。
ダクト工事の承諾は、どこに何のために開けるか、退去時の処理はどうするかを書面で確認しておくことが必須です。
チェックポイント2|内装工事をめぐる法律と「書面化」の重要性
造作物の所有権はどちらにあるか
飲食店の内装は、大きく以下の3種類に分けられます。
| 区分 | 内容 | 退去時の扱い |
|---|---|---|
| 建物の構成要素 | 壁・床・天井・配管 | オーナーのもの(原状回復が必要な場合あり) |
| 借主の造作 | 厨房設備、カウンター、間仕切り壁など | 原則として借主のもの(造作買取請求が可能な場合あり) |
| 動産 | 冷蔵庫・テーブル・椅子など | 借主のもの(持ち出し可) |
重要なのは「造作買取請求権」(借地借家法第33条)の扱いです。
これは、カンタンにいうと
退去時に借主が設置した造作(棚・空調など)をオーナーに買い取ってもらえる権利
ですが、事業用賃貸では契約書で排除されているケースがほとんどです。
契約書に「造作買取請求権を放棄する」という一文があれば、退去時に厨房設備を撤去するのか、置いていくのかも含めて、事前に合意しておく必要があります。
工事前の「書面承諾」がなぜ必要か
民法第616条(旧208条)の趣旨として、借主が建物に変更を加える場合はオーナーの承諾が必要とされています。
承諾なしに行った改造工事は、オーナーから「原状回復」を求められるリスクがあります。
書面承諾を取る際に明記すべき内容
- 工事の内容(図面・仕様書を添付)
- 施工業者名
- 工事期間
- 費用負担の区分
- 退去時の取り扱い(撤去or置いたまま)
「知人業者」でも書類は必須
地方での飲食店開業では、地元の工務店や知人の職人に依頼することも多いと思います。
しかし「知人だから」という理由で口約束にしてしまうと、後々のトラブルの原因になります。
特に重要なのが、正式な見積書・明細書の取得です。
- 工事費の総額と内訳が証明できる
- 万が一の事故・瑕疵の責任範囲が明確になる
- 建物共済や保険への申請に必要な書類として使える
- 退去時の「費用精算」の根拠になる

工事費の証拠書類がない状態で、退去時にオーナーへ費用精算を求めても、「いくらかかったか証明できない」として請求が認められないケースがあります。
領収書・見積書・銀行振込記録は必ず保管してください。
チェックポイント3|退去・原状回復をめぐる法律と契約条項
「スケルトン返却」と「居抜き返却」の法的意味
飲食店の退去時に最もトラブルが多いのが、原状回復の範囲です。
スケルトン(スケルトン渡し)返却
内装をすべて撤去し、コンクリートむき出しの「骨格だけ」の状態に戻すこと。解体費用は借主負担になることが多く、数百万円になるケースもあります。
居抜き(現状)返却
内装や設備をそのまま残した状態で明け渡すこと。次のテナントが設備を引き継ぎやすいため、オーナー・借主双方にメリットがある場合もあります。
住居用賃貸については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって借主保護の基準が示されています。
しかし、事業用(店舗)賃貸にはこのガイドラインが直接適用されないというのが実務上の扱いです(最高裁判例でも事業用賃貸はガイドライン適用外とされた事例あり)。
つまり、「スケルトン返却」と契約書に書いてあれば、原則としてそれに従う義務があるのです。
契約書でチェックすべき条項
- 「原状回復の定義」が明確か(スケルトン返却 or 居抜き可)
- 借主の「故意・過失による損傷」の定義が曖昧でないか
- 退去通知の期間(6ヶ月前通知が多い)
- 解体業者の指定があるか(指定業者だと高額になりやすい)
- 敷金の返還時期と条件
敷金・保証金の返還に関する注意点
事業用賃貸では、敷金(保証金)の金額が大きく、6ヶ月〜24ヶ月分の賃料を預けるケースも珍しくありません。
この敷金から退去時に「原状回復費用」が差し引かれます。問題は、「どの範囲が借主負担か」の合意が曖昧なまま契約してしまうことです。
よくあるトラブル
- 「通常の使用による劣化(経年劣化)」まで借主に請求される
- 解体工事の見積もりが相場より大幅に高い指定業者を使わされる
- 敷金の返還が数ヶ月〜1年以上遅れる

入居前に「入居時の物件状態」を写真・動画で徹底的に記録しておきましょう。
既存の傷・汚れ・設備の不具合を証拠として残しておくことで、退去時に「借主がつけた傷」として不当な請求をされるリスクを減らせます。
補足知識|飲食店開業に関わる許認可と物件の適法性確認
「用途地域」の確認:飲食店が出せない場所がある
都市計画法に基づく「用途地域」によって、その土地で営業できる業種が制限されています。
| 用途地域 | 飲食店営業 |
|---|---|
| 第一種低層住居専用地域 | 原則不可 |
| 第一種中高層住居専用地域 | 床面積500㎡以下で可 |
| 近隣商業地域・商業地域 | ほぼ可 |
| 準工業地域 | 可 |
物件のオーナーや不動産会社が「飲食店でも大丈夫」と言っても、用途地域上NGな場合は行政から営業停止を命じられることがあります。市役所の都市計画課や建築指導課で確認してください。
保健所の「飲食店営業許可」に必要な設備基準
飲食店を営業するには、保健所の飲食店営業許可が必要です。許可を取得するためには、施設が保健所の基準を満たしている必要があります。
主な基準(都道府県によって異なる)
- 厨房と客席が区切られていること(仕切り壁or扉)
- 手洗い設備が専用で設置されていること
- 食器洗浄のための二槽シンクまたは食器洗浄機があること
- 冷蔵・冷凍設備が適切に設置されていること
- 換気設備が整っていること
これらを満たすために内装工事が必要になるケースがほとんどです。
事前に管轄の保健所に「事前相談」を行い、工事前に基準をクリアできるか確認することを強くお勧めします。
実践編|契約前に確認すべき「10のチェックリスト」
以下のリストを、物件内見と契約交渉の際に活用してください。
インフラ・建物確認
□ 下水道への接続状況(本下水 or 浄化槽 or U字溝)
□ グリストラップ設置スペースと排水経路の確認
□ 電気引込みの方式と容量(単相3線式200V以上か)
□ ガスの種類(都市ガス or プロパン)と配管径
□ 換気ダクトの設置可否と外壁開口の承諾可否
□ 雨漏り・結露・シロアリなどの既存不具合の有無
□ 用途地域の確認(飲食店営業が可能か)
契約条項の確認
□ 使用目的の記載(「飲食店」と明記されているか)
□ 普通借家 or 定期借家の別(定期の場合は期間と再契約の条件)
□ 内装工事の事前承諾手続き(何を、どのタイミングで承諾するか)
□ 原状回復の定義(スケルトン返却 or 居抜き可)
□ 修繕費用の負担区分(大規模修繕はオーナー負担か)
□ 造作買取請求権の有無(多くの場合、放棄が求められる)
□ 中途解約の条件と違約金
□ 退去予告期間(6ヶ月が多い)
□ 保証会社への加入の要否と費用
□ 敷金・保証金の返還条件と時期
まとめ|「準備した人だけが、理想のお店をつくれる」
飲食店の開業は、情熱だけでは乗り越えられない「法律と契約の壁」があります。
しかしその壁は、正しい知識があれば必ずクリアできます。
最後に、最も大切なことを3つに絞って伝えます。
1. 契約書にサインする前に、すべて読む。
不動産会社の担当者は「賃貸の専門家」ですが、「借主の利益を守る専門家」ではありません。
しっかり読みましょう。分からない条項は分からないままにせず、調べたり質問するべきです。
2. すべての合意を「書面」で残す
「口頭で言った」「向こうが同意した」は、後になると証拠になりません。工事の承諾、費用負担の合意、退去時の扱い……すべてをメールや書面でやり取りし、保存してください。
3. 保健所への「事前相談」を内見と同時期に行う
物件が気に入ったら、契約前に保健所に相談してください。
設備基準を満たせない物件を契約してしまうと、許可が下りずに開業できないという最悪のケースも起こりえます。
佐久市で飲食店開業を考えているあなたに、地域に根ざした不動産の専門家として、正直な情報をお伝えしました。
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